「ブーカを辞めさせる。そして、訪問介護事業所を閉鎖する。

・・・キミだって重荷だろう? ブーカのことも。訪問事業所のことも。

キミの雇用は保障する。訪問事業所を閉鎖させたあとは、デイケアのスタッフに戻ってもらう。

キミのほうから院長には言いにくいだろうから・・・俺が言ってやる。」

これが、ねずみ男事務長が持ち掛けてきた話です。


これからどれぐらい後だったか。ハゲがリハビリの主任になりましたよね。

リハビリはハゲが主任になる以前から、業務的なシステムは整っていました。

そしてハゲと一緒に働くPTの先生たちも、デイのスタッフとは比べ物にならないくらいマトモです(笑)。

しかしそんな状況下でも、事あるごとにハゲは院長先生や事務長のところに出向いてました。連絡や報告を密にしてました。

それが本来の、責任者としてのあるべき姿です。そして・・・そうでないと出来ない。出来ないですよ。自分ひとりでは無理なんです。


ワタシはどうだったか。

院長先生から「デイには行くな」と言われている手前・・・デイに入り浸っているワタシは、むしろ院長先生のところに行けなくなっていました。

ねずみ男事務長とも上手くいっておらず、相談どころではありません。

現場レベルでもws主任やS原さん。ワタシに苦言を呈すほうです。

そしてビジンダーさん、あなたに至っては・・・

どこをどう見間違えたら、そういうふうに見えるのでしょうか? ブーカとN本のこと、よさげに評価してましたね。

それにその当時、ワタシはまだ

訪問介護の所長ながら
デイケア及びビジンダーさんを助けにやってくる
白馬に乗った王子様

気取りでいましたから。あなたに弱いとこ、見られたくなかったんです。


誰にも相談出来ない。誰にも話せない。

・・・完全に孤立無援。八方塞がりです。

その状況で、ブーカとN本に対峙しなければならないのです。

これは出来ない。出来ないですよ。


いやもう、仕事どころではないです。

どうしたら訪問の利用者が増えるか・どうしたらよりよいサービスを提供できるか。そんなこと考える余裕もなかったんです。

・・・考えたところで、ワタシとブーカじゃ実現無理だったでしょうけど。


もうね。本当にあのふたりのせいで、こっちは頭がおかしくなりそうだったんです。そしてそれはもう、限界の域に達していました。

そこにねずみ男事務長からの、この話です。まさに『願ってもない』話でした。


しかしワタシはそこで、厚かましくも条件を出します。

「ブーカがいなくなれば、デイで働く職員もひとり減ることになる。デイにひとり、職員を補充してほしい。」


ワタシはこのとき、自分が初めて任された訪問介護事業所・そして、初めて就任した所長という役職。

それら全て、自ら捨てるか否かの選択に迫られていました。

なのにこの期に及んでワタシはまだ、デイケアのことを考えていたんです。


・・・愛ですよ。

デイケア愛です。
これが愛っちゅうもんやでっ!!


まーそれはさておき。ねずみ男事務長は

「それは当然だ。必ずひとり、デイの介護スタッフを雇う。」

そう約束してくれました。

しかしそこで。そこでです。ワタシは更なる要求をしてしまいます。

「ブーカを辞めさせたら、N本も一緒に辞めるかもしれない。だから・・・

ふたり雇って下さい!!」


あの・・・一応ねずみ男事務長は、ワタシを助けてくれようとしてるんですよ。

それなのに、それを理解しているワタシが臆することなく、なぜこんな厚かましいお願いしているのか? というと。


ビジンダーさん、あなたを納得させるためです。


「ブーカを辞めさせたら、N本も一緒に辞めるかも」 

これはあなたの言葉です。

でもですよ、それで困ると言うのなら・・・アイツらがいなくなった分、新しく人を雇えば済むでしょ? それで事足りるでしょう? 解決するでしょう?

理屈は間違ってないでしょう?


・・・本来、ワタシが考えなきゃいけない事案ではないんです。ワタシはデイケアのスタッフではないんです。

それでもやはり、ワタシはデイケアを愛していたのです。


「う~ん・・・それ(ふたり雇用)は考えとく。

だから、いいな? ブーカを辞めさせて訪問閉鎖。いいな?

キミがOKを出してくれたら、今から院長に言いにいく!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」


・・・とんとん拍子に進む話に、躊躇してしまったワケではありません。

「少し・・・考える時間をください。」

「そうか。キミも急に言われてすぐに、っていうワケにはいかないよな。

わかった。キミの気持ちが決まるまで待つ。だけどなるべく早く返事をくれ。」

そう告げると、ねずみ男事務長は先に部屋から出て行ってしまいました。


照明がついていたのかいなかったのか、そこに誰かいたのかいなかったのか。

覚えていません。ただしばらくの間、ワタシはひとり・・・俯いたまま、ポツンとイスに座ってました。


このとき、なぜねずみ男事務長の提案を快諾しなかったのか。

なぜ即断即決でブーカをクビにしなかったのか。

なぜ『考える時間』を必要としたのか。

それは次回、説明させていただきます。